タイトルから大袈裟な話を連想するが、人によってはそうかも知れないし、あまり実感が湧かない場合もあるだろう。
この仕事を四半世紀もしているとつくづく思うのだが、年代によって治療の効果の出方に大きな差がある。もちろん患者さんの状態や元々の体力、または治療内容とのマッチングもあるのだが、基本的には若い世代ほど効果は出やすい。
例えば急性腰痛で一見して普通に動けていない場合、20~30代前半であれば2回の治療で大体の完治の目安が分かるが、40~50代となると3回は必要で、70代以降になると5回くらいでは予後が分からないこともある。(もちろん良くも悪くも例外はある)
これは年齢別にダメージを受けた後の回復力を如実に表している例である。
医学の専門書を読むと「捻挫や肉離れなどの怪我に対する回復期間の目安」などあるが、これはスポーツなどを激しく行っている世代のデーターなので、前述した急性腰痛でいうなら最初の20~30代前半の中の更に若い世代の話しになる。つまり全世代でも相当回復力のある人達のデーターは、30前後になるともう当てはまらない。

ちなみに私の例で恐縮なのだが、身体の回復力が落ちたと最初に感じたのは22歳くらいだった。
当時はベンチプレスを中心に筋トレを行っていたが、頻度や強度によっては肩の付け根に痛みやコリ感があり、それが少し休んだだけでは取れなくなっていた。「あれ、これまでとは何か違うな」と感じた。筋トレ歴が増えるにつれて扱う重量が増え、それに伴う負担の増強という側面もあるので自身の回復力の低下だけが原因とは言い切れないが、この年からはそれを実感した。したがってそれ以降は頻度と強度のバランスを綿密に考えるようになった。
次にはっきりと覚えているのは柔道で足首を捻挫した際の回復だった。この時は30歳だったと思う。
その2年くらい前に柔道界では超有名な吉田秀彦選手が雑誌の取材に「この年(30歳)になると怪我をしてもいつ完治するか分からないのでコンディション作りが難しい」とコメントしていたが、実際私も2~3週間で治るような足首の捻挫が中々完治しないようになっていた。8割くらいは予定通り治るので柔道は大方普通に行えるようになるのだが、練習の最後に座礼(正座)をする際に多少の痛みがあるのだ。残りが治り切るのに2ケ月くらい掛かった。
ちなみに大横綱の貴乃花が「それまで3日で治っていた怪我が25才を過ぎると3週間掛かるようになった」と語っていたが、あながち大袈裟な話ではないように思う。
足首以降は幸いなことにしばらく無く、次に体感したのは40代半ばで両膝が悪くなった。これは単純な怪我ではなく、軟骨にも影響が及んでいた。致命的な要因となったのはその頃やっていたバーベルでのスクワットだが、一時的な怪我は済まず、現在進行形である。半月板や軟骨をやってしまったのだろうか?
今の症状は最悪のピーク時と比較すると痛みは2割以下で、ウォ―ムアップをしっかり行えば全力疾走も可能だが、怪我以前のような状態には戻らないだろう。
それにここ2年くらいは腰が悪い。治療家の職業病に腰痛はつきものだが、主な原因がゴルフと思う。しかし走るのと同じくウォ―ムアップをしっかりやればプレーには問題無い。となると過去の筋トレでの負担が劣化を早めた要因にも思う。
肩もあるが大ごとでは無いので良いのだが、それでも40代から治りが遅くなった。とてもじれったい。
いわゆる40、50肩が発生する要因はこういうことなのかと実感した。要は回復力が遅くなったあまりに周りの組織を巻き込んで悪化する。ギックリ腰のように突発的な場合もあるが、どちらにせよ加齢が絡んでくる。但し肩関節は腰から下の関節のように荷重関節ではないので、一生モノにはならない。そのあたりは幸いである。
ブログの前半に医学書にある回復の目安に触れたが、30代以降について書かれているのを目にした事が無いのは、「年齢を重ねるにつれて回復に時間が掛かるし、しかもそれは個々のポテンシャルに大きく左右されるので一概には言えない」と言う事だろう。
代表的な疾患だけでも一覧表があっても良いと思うが私が知らないだけだろうか?
(ちなみに手術後の回復期におけるマニュアルは存在する。)
で、この仕事をしていると特に高齢者から「私の症状はもうトシってことですか?」と度々聞かれる。これは一瞬答えに窮する場面であるが、以前なら「いやいやそんなことはないですよ誰でも起こり得ます。」と顔を引きつらせながら答えていた。
なぜなら学生時代の授業で先生に「患者さんにトシって言ってはいけませんよ。加齢と言いなさい」と教えてもらったので、なるべくそのワードは出さないようにと。
あまりに何度も聞かれた場合には、いやいや~と言いつつ最後には「やっぱり加齢という要素はありますね・・・」とあくまで追伸という感じで返答していた。
しかし開院した時は31歳の若造だった私もあれから20年以上の月日が経ち、どっぷり中年となり身体のあちこちに加齢による症状が出てきた。
30代の頃に70~80代の方は私にとって「祖父母世代」だったのが、今の私には「父母世代」になったせいか、30代に比べて身近な存在になってきた。
したがって今は「私の症状はトシってことですか?」と聞かれれば、一通り説明した最後に「まあ加齢という要素は否定できませんね」と遠慮なく説明している。昔と比較すれば変化した。しかしまだ第一声でそのワードを使える程は大胆になれない。
ちなみに「トシ」というワードは私よりも若い世代でも使う人はいる。
30代後半から多くなる印象だ。自虐的な意味も込めてだと思う。
私の回答はここでも似たようなもので、一通り説明した最後に「加齢と言う要素は多少はあります。なぜなら回復力は20代前半がピークですから、それに20歳と40歳のレントゲン画像を見ると年齢による違いが一発で分かります」と付け加えることが多い。これはネガティブに考えるより、紛れもない現実を認識し、その上でこれからどうしたら良いのか?を前向きに考えて欲しいからである。
昔スポーツクラブに勤めていた時代に、当時60代くらいだった会員さんと年齢に関する雑談をしていて「もし若返る薬があったら飲むよ~!」とその方は真剣に語っていた。ハタチそこそこだった自分は単なる四方山話をしていたつもりだったのに急にそこで真剣な眼差しになったのに驚いた。
その頃の私はそんなこと考えもしなかったが、あの一言は今でもハッキリ覚えているし、30年以上経った今はそれを実感するようになった。

よく「時間の流れは赤ちゃんでも忙しいビジネスマンでも平等だ」と言われるが、まさにその通りで、これは誰にとっても抗えない絶対的な神なのだ。
中年以降は身体的なものは全てが下り坂になる。映画「スーパーマン」のように時間を逆回転させれればよいが、庶民にはちょっと無理だ。
だが頭の考え方次第で前向きにとらえる事は可能だと思う。と言うよりそうでないと残りの長い人生やっていられない。
時間の流れをどう感じるか、どう過ごすかは人によって異なるのでそこを充実させ、「下り坂を昇る」ような心境で、あらゆる事に備えていれば良いのではないか?と最近は思っている。
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