10年を瞬間移動

先日桑名に用事で行った際に、1号線を曲がって西に向かう上り勾配のバス通りを、友人の武ちゃん操るクラウンに乗っていてフと思った。「あれ、この通りはこんな上り坂だったっけ?」と。

すかさず武ちゃんに聞いてみるが「前からそうだよ」と。そらそうだ。区画整理などでルートが変わらない限りそんなことは無い。

以前、桑名には10年間住んでいて、そのバス通りは生活路として何度も往復しているはずなのになぜ今になってそう思ったのだろうかと考えた。

思えば20歳の時にもこれと似た不思議な感覚を味わったことがある。

それは桑名に移り住んだ時、市内には国道1号線が通っているのを知ったのだが、その前の前に住んでいた神奈川県藤沢市にも市内を1号線が貫いている。

その時は中1だったが「この1号線を東京方面にずっと進んでいけば、前に住んでいた藤沢に行けるんだ。」と子供心ながらに思い、それをいつか実現したいと企んでいた。

そこで免許を取ってしばらくしたハタチの時に、その長年の思いを実現するべく、ある日の午後に車でスタートした。当時はもちろんナビなど無いし、地図も持たなかった。
ひたすら下道を真っ直ぐ進めば10時間くらいで辿り着くだろう、くらいの気持ちで出発した。

桑名を出て、愛知県に入り順調に進むも、静岡県内にはバイパスや有料道路があって進路が複雑になることもあり少々焦った。が、ひたすら国道1号線の標識を目印に進み、やがて神奈川県の箱根山を越えて更に東に進み続け、小学生の頃の記憶を頼りに藤沢市辻堂元町にある以前の自宅前に辿り着いた。
深夜1時くらいだっただろうか?

ちょうど10年振りに訪れたのだ。ハタチにとっての10年は人生の半分だ。ものすごく懐かしく感じた。

夜中だったせいで街には人がげが無かったので、色々思いつく所を車で周り、その都度車を降りて景色を眺めたが「あれ、こんなんだったけ?」という違和感を行くところ行くところで感じた。

それは当時は移動手段が徒歩か自転車しかなかった地区を、夜中の空いてる道を車で走っているので当たり前なのだが、町全体がミニチュアのように小さく感じたのだ。
徒歩で20分くらいかかった小学校など車で3分くらいで着いてしまう。

それに自宅近所の住宅の垣根がやけに低く見え、すべての道路の幅はとても狭く感じる。車同士ではすれ違えない細い場所ばかり。自転車でえっちらおっちら上った長くてキツイ上り坂など「あれ、こんな小さな坂だったか?」という感じ。「坂を削って低くしたのでは?」とさえ思った。

誰もいない夜中の街角でガリバー旅行記みたいなファンタジーの世界に自分一人だけいる感覚だった。

なぜそんな感覚になるのか?・・・少し考えてハッと気づき、その場でしゃがんでみると視野が下がって記憶にあった当時の景色が見えている。「ああこれだ・・・この景色だ。」

要は私の身長が伸びたのだ、40㎝くらい。それによって景色の見え方が変わっただけだった。でもその差はとてつもなく大きかった。自分の記憶は小学生の頃の視野で止まっているからだ。

10年という時間の流れを視野の違いで瞬間的に感じた貴重な体験だった。
これは50数年の人生の中でも強烈な印象として今でも記憶の中にハッキリと残っている。

では話は戻って先日桑名で不思議な感覚を得たのは何だったのだろうか?
これもハタチの時に感じた事と同じなのかと思い考えてみた。

思い起こせば桑名に住んでいたのは中1からの約10年だ。
あのバス通りは文字通りバスに乗って何度も通っているし、免許を取った後は原付バイクで何往復もしている。その時代が長く、普通車を運転して通った記憶はあるにはあるがその数や年数は少ない。

つまり私の記憶にあるバス通りの視野は、比較的高い位置から見た景色なのだ。

したがってクラウンに乗って見たのは、記憶にあまり無い低い位置からの景色だったので上り坂がよりきつく見えたのだ。

「あれ、この通りはこんな上り勾配だったっけ?」と。

ハタチの時のファンタジーな体験とは全く逆の現象だが、私にはとても新鮮な感覚だった。

生涯で引っ越しを10回以上経験しているが、こんな摩訶不思議な現象を体感出来るのはそのお蔭かも知れない。

サムネイルは当院の近所にあるちょっとした上り坂だが、ここも小学2年生の時には目線が低かったせいで、地平線の向こうからその先にある交差点の信号機が見えてきた覚えがある。
今なら全くそんな思いはしないが、試しにしゃがんで見てみると当時の記憶の通りに見えるのが面白い。

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