まさか五十肩!?

主に身体に痛みのある方を対象に、その症状を改善させることを生業として20年以上経過したが、「なぜ私はこんな事になったのか?」と聞かれる症状の上位に、いわゆる五十肩がある。

五十肩は一般的な俗称で正式には「肩関節周囲炎」となるのだが、その病態は実に幅広く、正確に診断名をつけるとすれば数種類はある。

では一般的に言われる五十肩とはどのような状態なのだろうか?

「五十肩ってどんなイメージですか?」と患者さん本人に聞くと、殆どの方が「腕(肩)が痛くて挙がらない状態」と仰る。
はい、その通りでございます。ただそれに「その状態が数週間~場合によっては数年続く」がプラスされる。私の解釈では。

参考までに   五十肩について | メディカルノート (medicalnote.jp)

したがって、肩が痛くて動かせない状態であっても、それが2~3週間程度で改善される場合は、わざわざ五十肩とは言わない。ちょっとした肩の怪我である。どの年齢層であっても。
だから特に若い方が肩を痛めて来院し「これは四十肩ですか?」と聞かれても私は「ノー」と答えている。
一方、同じような状態であってもそれが中々改善されず、ダラダラと数か月以上続いている場合は五十肩と言っても良い。
つまりこういった状態に陥るのは40~50代が多いので「四十肩または五十肩」と呼ぶのである。
(以下五十肩で統一する)ちなみに全年齢層で同じことが発症する可能性はあるが、統計的にこの年代が多いからそう呼ぶようになった。

痛みの原因は、
・炎症があるのでそのせいで痛い。
・負傷している患部や関節構成体が硬くなっているので必要以上に動かすと痛い。
・関節の収まりが悪いので動かすと痛い。
などが私の解釈だ。

きっかけは何?(発症パターン)
何かの動作の際に筋肉などを傷め、それが発端となってジワジワ起こっている場合と、まるでギックリ腰のように、あるタイミングで突然激痛が発症するケースがある。(ギックリ腰と同じで朝が多い)

前者の場合はその痛めた時に気付いているかいないかはケースバイケースだが、いずれにしてもその後に「あれ、なんか筋肉が痛くて伸びないな」となる。
そして可動域の中に痛みで動かせない領域が現われ、ついその領域に入ってしまうと、「痛っ!!」となる。
よくあるのは車の運転席に座っていて、シートベルトを取ろうとする動きや、後部座席の荷物を取ろうとする動きの時に激痛が走るパターンである。また就寝中に痛みで目が覚めるケースもある。
ただ全可動域の7割くらいは動かせるし、その領域にさえ入らなければ、あまり支障は無い。
しかし中年になると、これくらいの損傷でも回復に時間が掛かるので、早いタイミングで積極的にリハビリ治療に取り組んだ方が治癒は早くなる。
この状態で「これは五十肩ですか?」と聞かれたら「片足以上突っ込んでいますがまだマシな方です。」と答えている。

発生パターンにおいて前者はまだ良いが、後者は大変である。

何せ全く動かせないし、強い炎症の為、激痛が数日間続く。ギックリ腰程ではないが日常生活動作の多くが不便となる。
治療するにしても消炎鎮痛やアイシングが中心であまり他の事は出来ない。
しかしこの状態で来院された場合、初期は痛みの為に大変な思いをされるが、不思議なことにリハビリ治療が何か月も続くことは無く、何週間レベルで治癒をされる。
但し、強い炎症期にどこにも医療機関に行かなかったり、また行っても適切な治療を受けられなかった時は場合によって肩関節に「拘縮」が発生することもある。

五十肩で一番厄介なのがこの拘縮である。拘縮とは一定期間関節を動かさなかった為に柔軟性が著しく低下した状態であり、骨折後にギプス固定した時や、寝たきりの場合にも発生する。
先ほどの前者の場合も、痛みを恐れて肩関節を動かさないでいると、やがて拘縮していく場合もある。

参考までに  拘縮 | 看護師の用語辞典 | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)

肩関節の可動域がフルにある場合、腕を真上に上げると、上腕が耳に付くが、拘縮が酷くなると、その半分くらいしか挙がらない。例えると、腕を前へならえの位置まで持ってくるのがやっととなる。

肩がこの状態になると、積極的にリハビリを行ったとしても、ある程度の可動域に戻るのに数か月は掛かる。
放置してもやがて治るが、それには数年を要することもある。ちなみに私の知っている限り、7年掛かったという人が3人はいる。(よくそれだけの期間皆さん放置したと思う)
したがって典型的な五十肩はこの拘縮を起こした状態であり、リハビリを行う上でいかにこれを起こさないようにするかが肝要である。
私が開業前に努めていた整形外科では院長の方針で、炎症期の強い人でも可動域訓練を行わせていた。それは何としても拘縮をさせない為ではあったが、患者さんは痛みのせいで半泣きでリハビリを行っていた。
当院はそれだと患者さんが辛いので、炎症期が少し収まったタイミングで可動域訓練を始めている。

ではなぜ長引くのか?

要因①
回復期間の長さ
肩関節を痛めるのは日常生活のちょっとした動きであったり、スポーツ動作などであったりするのだが、一旦怪我をした場合、その部位が回復するのにはどうしてもある程度の期間を要する。そしてその期間は年齢を重ねると共に長くなる。
平成の大横綱だった貴乃花が現役時代に語っていたコメントで印象的だったのは「以前は3日で治っていた怪我が25才を境に3週間掛かるようになった。」とあった。ちょっと極端な感じもするが、たとえとして非常に分かり易いコメントだった。
そうなのだ。若い内は回復力も旺盛だが、10才年齢を重ねる毎に回復期間は倍々ゲームで掛かるようになる。50才にもなるとちょっとした怪我でさえ、数か月掛けていかないと治らないケースもある。
とにかく治癒するまでに期間を要する。
あと悪い部位があると、身体は無意識にそれをかばったり補正したりする。その期間が長くなると更に過程が複雑になる。痛い箇所だけ治療するのではなく、全身の状態を見て行く必要がある。

要因②
日頃の運動の有無
回復期間と同じく加齢による変化の1つに「柔軟性の低下」がある。
学生時代の体力テストで柔軟性の項目で高い評価を得ていた人も、社会人以降なにもせずにいると中年になって信じられないくらいに柔軟性が低下する。元々硬かった人は更に硬くなる。
だが、日頃から運動の習慣がある人で、正しい柔軟体操を行い続けている、または運動で肩関節の可動域をフルに使っている場合は、筋力と柔軟性があるので多少の無理が肩に掛かっても耐えられるし、仮にダメージを追ってもそれを少なく抑える事が出来る。つまり軽症で済む。
そして運動習慣のある方は、痛めても運動をしたいので早目に治そうとする積極性がある。
しかし逆にその積極性が裏目となり、治らないうちに運動をしてしまって、いつまでも痛みが続いてる人も実に多いので、そのバランスは難しい。
だが拘縮するよりは遥かにマシである。
それにこの類の方は(私もこの分類に入る)運動を止められるとストレスになるので、そちらの方が精神を病んでしまう。(笑)
こういった元々運動習慣のある方の割合は全体の2割くらいだろうか?
逆にギックリ腰のように突然発症する方は日頃から運動不足の方が多い気がする。

要因③
加齢による関節の変性
つまりは靭帯や軟骨などが年を取って弱くなってくる。

ざっと思いつくままに書き出したが、一言で言えば全てに加齢が絡む。
したがって私が患者さんに聞かれた場合、五十肩の多くは「加齢と運動不足が原因です」と答えている。
もちろん個々によって要因は違うのでその後にその方なりの説明をしているし、更に言うと加齢現象の1つである五十肩という名称を安直には用いないようにしている。

その元を辿ると、私が10代だった頃、結構なレベルで野球をやっていた友人が、肩を痛めて病院に行った所、「四十肩」と言われてしまい、非常に落ち込んでいた。
本当はもっと様々な説明や「野球肩」という話もあったのではないかと思うが、10代の若者が「四十肩」という言葉を出された事にに大きなショックを受けたのだ。

ここまで医学の一般的な理論を踏まえた上で、私なりの解釈を書いてきたが、五十肩に限らず、病名を伝える時には仮に「たとえ」であっても慎重に言葉を選ばないといけない。
30年以上前の経験が自分への戒めとなっている。

一方、70代の方に「四十肩ですね~」と言うと笑いが起きて一瞬その場が和むんですけどね。





関連記事

  1. 効果的なメンタル強化法

  2. コロナ報道の裏側

  3. 炎天下で葛藤するバカ達

  4. 20000歩

  5. 「曇天は紫外線が強い」の謎

  6. ホームページリニューアル(^^)/

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。